加藤事務所 (代表:加藤進一)のゴム産業 解説
ブリヂストン・米国ファイアストン社のディケイータ工場で生産されたタイヤの一部が、特定の条件でトレッドがはがれる可能性があるとして自主的にリコールを申請し、自主回収、無料交換を始めている(平成12年8月10日)。
その交換方法は:
- 現在車に装着されている該当3種タイヤは、BSF社にて無償交換
- 2000年1月より8月までにすでにユーザーが自主的に該当タイヤを、BSF社製タイヤに交換していた場合には、そのタイヤの費用を負担。(ただしすでに使用し数ヶ月分は、その補償費用から割合計算で割り引かれる)
- 2000年8月9日(リコール発表日)より8月16日までの間に、ユーザーが自主的に当該タイヤを他社の同種のタイヤに取り替えた場合には、ユーザーにタイヤ一本当たり最大$100(タイヤ交換費用、バランス調整費用を含む)までの補償金を支払う。
- 今後BSF社が無償交換するタイヤについては、もしBSF社製タイヤがたりない場合には、他社製の同等のタイヤに交換する場合もあり
- このタイヤはFORD社SUV車種FORD EXPLORE車に数多く搭載されたスチールラジアルタイヤです。どんなタイヤであるかは、こちらタイヤRadial
ATXⅡ、タイヤWildernessAT(ブリヂストン・ファイアストン社提供)をクリックしてみてくだたい。このうちP235/70 R15のサイズのものが該当すると発表されています。
- 一般的な知見をして、タイヤ圧不足で空気圧低下-->長時間走行時タイヤトレッド部が高温となる。(とくに米国南部で)-->トレッドのはがれ(TREAD
SEPARATION) とBS社では説明しています。 特に、今回は高温になりやすいアリゾナ州、カルフォルニア州、フロリダ州、テキサス州でこのクレームが多いとしています。
- 自主回収のタイヤの製造期間が数年間にわたるところから。この原因は、たまたまの製造不良ではなく、タイヤの構造か、配合か、タイヤコンパウンドをトレッド部に巻き付けるタイヤビルヂング部あたりに原因がある可能性も予想されます。また特定のサイズのみに問題が発生している可能性が高いでしょう。
- ゴム、タイヤ技術者の経験からいうと、この種の問題は、スチールコードとタイヤコンパウンドとの接着不良、またはタイヤビルデング工程に起因することが多いようです。接着不良については
とくに長期間の高温、多湿条件下での接着力低下は良く知られていることであり、またタイヤメーカー各社が苦労しているところでもあります。
- この種の問題は、特に米国で発生する可能性があります。一般的に日本のタイヤメーカーや欧州のタイヤメーカーは、スチールコードとタイヤコンパウンドとの接着には、あまりレゾルシン系の接着剤を使用せず、硫黄・コバルト系での接着を多用しています。特に日本のブリヂストンとフランスのミシュランは硫黄・コバルト系を昔から研究しています。
一方GOODYEAR社を初め米国のタイヤメーカーは一般的にレゾルシン系の接着剤を多用し、特にスチールコード系までも、レゾルシン(レゾルシン-フェノール樹脂ではなく)単体を使用したタイヤコンパウンドやRFL接着剤を中心に使用しているメーカーもあるようです。よって今回のクレームが、もし仮に、スチールコードとゴムの接着に関係するとすれば、この問題は、米国タイヤメーカー独特の問題であります。ブリヂストン社は、米国の旧ファイアストンの工場では、旧ファイアストン社での配合、接着方法がいまだに使われており、日本のブリヂストンの独自の配合があまり採用されていないとも言われています。よってゴム接着系も、日本と異なる系を使用していた可能性もあります。これは、米国でのタイヤ市場が求めている要求仕様が、日本と異なるからでもあり、また市場が安いタイヤを求めているからかもしれません。
- 逆にこの種のクレームは、ブリヂストンの日本で生産されたタイヤではまず発生しないでしょう。設計、配合が異なるからであります。日本の自動車メーカーが今回の問題で、ブリヂストン社日本生産のタイヤについて心配することはまったく不要です。
- スチールコードとゴムの接着の問題は、昔から非常に難しい問題です。スチールコードの材質の問題、また配合上の問題があっても、また、レゾルシン、フェノール、HMMA、硫黄の材質の問題があっても、またRFLの社内生産技術の問題があっても
すべて、長期使用後(それも今回のように、高温長時間での使用)になって、初めてタイヤセパレーションという問題になって発生します。
現象が初期にはわからないのです。今回のファイアストン社のリコールの原因も、なかなかその原因を特定することは難しいでしょう。これは問題を隠しているのではなく、本当にその原因解明が難しいのです。接着の問題は、科学的にも化学的にも物理的にもあまりきちんとは解明されていないのが現状なのです。 今回発見された現象(トレッドセパレーション)が、コードとゴムの接着に関係していたかどうかは、今のところはっきりしていません。この点については、これから調査がすすむでしょう。
- 今回のブリヂストンの、このクレームに対する機敏な対応と、他社製タイヤを含めての交換プログラムを提供したことは、賞賛すべきものです。ある意味ではタイヤのクレームの怖さを良く知っているからであり、これだけ大量のタイヤの無償交換とその費用(650万本xこの種のタイヤの生産・物流コスト$55/本=380億円)を負担できる財務体力があるからでもあります。
- タイヤはある意味では、多くの技術の結晶のかたまりです。樹脂の成形とは、わけがちがいます。技術の集積度の度合いがぜんぜん異なるのです。硬い材質(コード)と柔らかい材質(ゴム)を同時に使用して性能を出すところがむずかしいのです。(タイヤの断面図を見るといかに多くの部材によりタイヤが成形されているかがわかります。
タイヤの構造図
はこちらへ)。 その意味では、タイヤは単に安値競争にはしるべきものではなく、その技術度合に応じた相当の価格で流通すべきものかもしれません。
さらに9月19日こんどは ドイツコンチネンタル社の米国小会社のゼネラルタイヤが、フォード向けタイヤ16万本(16インチの一部)をリコールで無償交換すると発表しています。
Ford社のSUV LincolnNavigators車 1998,1999モデル 約38000台についているタイヤで、それ以外に一般市場で約2万本売られました。このタイヤはヒートストレスにてタイヤショルダー部が持ち上がるおそれがあり、これによりトレッドベルトがカーカス部より剥離し、車に被害を与える恐れがあるとのこと。1998年3月以前に生産せれたタイヤが問題あり。それ以降同社は、押出しトレッド部の形状を変え、性能のバラツキを改良したとのこと。ヒートストレスは、タイヤへの過荷重、タイヤ圧の少なすぎが原因となると解説されています。
このコンチネンタル社の件で、
コンチネンタル社よりの解説(9月20日)はこちらへ
コンチネンタル社よりの発表(9月20日)はこちらへ
対象となるタイヤContiTracAS
P245/75R16のカタログはこちらへ(コンチネンタル社提供)
対象となるタイヤGrabber
AW P255/70R16のカタログはこちらへ(コンチネンタル社提供)
対象となるタイヤAmeri
660 P255/70R16のカタログはこちらへ(コンチネンタル社提供)
ファイヤーストーンの件で;
参考資料:
日経新聞オンライン記事(8月15日),(8月16日)はこちらへ
Rubber&PlasticNews紙(米国)記事はこちら
ブリヂストン社よりの発表(8月10日)(日本向け)はこちらへ
ブリヂストン社よりの発表(8月10日)(米国向け)はこちらへ
米国ブリヂストン・ファイアストン社からの詳細お知らせ(和訳)はこちらへ
米国ブリヂストン・ファイアストン社からの詳細お知らせその2(和訳)はこちらへ
米国ブリヂストン・ファイアストン社の詳細情報とタイヤ無償交換プログラム詳細(英文)についてはこちらへ
米国ブリヂストン・ファイアストン社からの詳細お知らせ(英語原文)はこちらへ
(CorporateNewsを選択)
、今までの発表文、詳細(英文)
対象となるタイヤWilderness
ATのカタログはこちらへ(ブリヂストン・ファイアストン社提供)
作成: 加藤事務所 (加藤進一) (ご連絡はこちらに)
更新日:2000年8月11日、8月13日、8月17日、9月20日