加藤事務所 ポリマーダイジェスト誌
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.平成14年10月号コラム
 タイトル: ゴム粉のリサイクル商品化

今回はゴムのリサイクルの話です。一般的にゴムはリサイクルが難しい材料として考えられています。プラスチックは熱を加え溶かすことによりリサイクルが可能でありますが、一度加硫したゴムはなかなか未加硫ゴムに戻す事が難しいようです。
 タイヤだけで見ますとすでにその使用済みタイヤの50%は燃料として燃やされエネルギー回収されています。タイヤは石炭に匹敵するほどの熱量をもったエネルギー源となり、セメント工場等で燃料として使われています。残りの50%のほとんどは、表面を削られて更正タイヤの台になったり、ゴム分を取り出し再生ゴムの原料になったり、また東南アジアに更正タイヤ材料として輸出され再利用がされています。
 通商産業省によるとタイヤは大きな意味でのリサイクルではかなり進んでおり、優等生だそうです。
 しかし本質的なことを考えると、やはりゴムのリサイクルは同じゴムの材料に戻すマテリアルリサイクルを考えるべきでしょう。
 現在実用化されているゴムのマテリアルリサイクルとしては、一つは微粉砕をしてゴムコンパウンドに混ぜる方法です。加硫済みゴムを約100メッシュ(0.1mm以下)ほどまで微粉砕し、それを未加硫コンパウンドに混ぜますと、それほど大きなゴム物性の低下がなく、使用済みゴムのリサイクル使用が出来ます。問題は100メッシュという大変細かいゴム粉をいかに生産するかです。世界を見ますとすでにアメリカのライズラバー社が水中粉砕法を用い100メッシュ~120メッシュといった細かいタイヤゴム粉を生産しています。また液体窒素を使いゴムを凍らせて粉砕する事により40~80メッシュの細かいゴム粉を得る事も出来ます。アメリカではこういったゴムを微粉砕する会社が数社あります。現在米国のタイヤメーカー数社ではこの微粉末ゴムをタイヤコンパウンドの混ぜて新タイヤを生産しています。
 日本でも長崎県にある会社では、液体窒素を使いゴムを冷凍粉砕し、30~40メッシュの細かいゴム粉を生産しています。冷凍粉砕についてはカナダの会社の技術を用いており、ゴムブロック材を製造しています。
 このように細かいゴム粉を次のゴムコンパウンドに混ぜて使う方法がありますが、ゴム技術者の知見では、いくら細かいとはいえ、加硫済みのゴム粒を未加硫ゴムコンパウンドに混ぜますとその境界面において破断が起こりやすくなり、やはりゴム物性が下がってしまいます。つまり、ゴムをなんとか未加硫の状態にまで戻し、再度、加硫ネットワークの中にいれることを考えるべきなのです。
 高熱エネルギー、高圧、そして高せん断力によって加硫済みゴムの加硫ネットワークを切断し、分子量を低くし、加硫点を作りだし、見かけ上の(?)未加硫ゴムに戻す方法がいくつか開発されています。
 豊田合成㈱および豊田中央研究所による加硫済みEPDMゴムの高速高温せん断法によるゴムマスターバッチ製造が実際行われています。
 また、横浜ゴム㈱ではタイヤの生産に使うブチルゴム製ブラダー(タイヤを内側から膨らまし加硫する風船みたいなもの)を高温高速せん断法により未加硫ブチルゴムに戻し再度利用する方法がスタートしています。
 ネックとなっているのは、このような高速せん断型の押出し機が非常に高価であり、政府の補助金無しにはなかなかこの方法がゴムリサイクルの採算にのらないという事です。
 アメリカのTRC社においては、高温高圧の窯を利用して事業として加硫済みゴム粉を未加硫ゴムに戻す事がここ10年間行われています。特にシリコーンゴムのバリ、EPDMゴムウェザーストリップくず、そしてブチルゴムのブラダーが、この会社で未加硫コンパウンドに戻され、これらのスクラップ、バリを排出しているゴム会社に返却され、同じコンパウンドに混ぜて再利用されています。
 またシリコーンゴムに限っていえば、高温高圧で分解するプロセスにより、シリコーンゴムをシリコーンオイルの原料とカーボンブラック、シリカ等に戻す事業が行われています。中国にそのようなリサイクル工場が数社あり、加藤事務所でも日本からシリコーンゴムのバリを毎月数十トン中国に送り、中国でシリコーンオイルに再生しています。出てきたカーボンブラック、シリカの粉は、中国でゴムサンダルやレンガ建材の骨材として利用されシリコーンゴムくずはすべて再利用されています。なおシリコーンゴムの種類によってはうまく分解できないものもあります。
 このようにいくつかの技術、事業が現在スタートしているわけですが、やはりゴム業界全体を考えますと、ゴム粉、ゴムバリをいかに次の「売れるゴム製品」にしていくかということが大きな課題となっています。例えば、ゴム粉やタイヤのひじき状のバリに粉末硫黄を混ぜ、プレス加硫しただけでかなりきれいなゴム成形体が出来ます。オーバー加硫することにより再度加硫反応がすすむのでしょうか、結構うまく成型できます。ゴムタイルや車止めポールに利用します。またゴムリサイクル品として、初めからこのような「環境にやさしいゴムリサイクル品」ということで、製品を作り出していくことも一つの手だと思います。用途物性のあまりうるさくない、または製品の寿命が短い、または公共施設で使われるためのリサイクル製品を優遇するゴム製品、こういった用途で新しいリサイクルゴム製品が増えていく事が望ましいと思われます。
 実際のところ、ゴム粉でリサイクル製品はいくらでも出来る。しかしそれがなかなか売れないというのが現状です。リサイクルコストが結構高くなり新品の材料コストより高くなってしまうこともあります。高いものは売れないのです。「環境にやさしいリサイクル品」という看板だけでは消費者は買いません。なにか消費者を引き付ける際立った特長をないと売れません。屋上緑化の材料に使うとか、脱塩ビ材代替に使うとか、ひとつゴムリサイクルを、上手く時流に乗った新しい製品群としてスポットを当て、そしてこれらの製品供給で事業が成り立つような、そんな事業モデルが出来ればよいと常々思っています。
 そうすれば、日本のゴムのリサイクル問題もかなり解決できると思いますがいかがでしょうか?

加藤事務所では、ラバーダイジュスト社発行の月刊ゴム・プラスティック関係の総合技術誌「ポリマーダイジュスト」に、「ラバー情報ステーション」のタイトルで、ゴム業界に関する情報コラムを平成14年5月より連載しています。連載後6ヶ月を経たコラムはここに公表しております。最新号の記事は、ラバーダイジュスト社よりポリマーダイジュスト誌をお買い求めください。(ラバーダイジュスト社 電話03-3265-4840)

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更新日2003/07/11
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