.平成14年5月号コラム
タイトル: アメリカのゴム材料事情
今回はアメリカのゴム材料についてお話したいと思います。私は今から10年ほど前にアメリカのゴムの中心地である、オハイオ州アクロンに3年間ほど駐在しておりました。そこでゴムの材料の販売及び日系初のゴム練会社エラストミックスUSAを運営しておりました。現地でゴム原材料の購買部長と営業部長をやっていたわけですが、アメリカのゴム原材料について申し上げると、まず原材料のグレード数が少ないと言う事です。大雑把に考えますと、グレード数は日本のゴム材料の約半分以下だと思います。ポリマー、カーボン、ゴム薬品にしても、各社スタンダードなグレードしか持っていません。日本の様にお客様に合わせてポリマーを生産するという事は、タイヤメーカー向け以外はまず無いと考えていいでしょう。又営業マンや技術サービスの人数も大変少ないのです。ポリマーメーカーもカーボンメーカーも営業マン3人、技術サービス2人が全米約1000社のゴムメーカーのフォローをしています。当然お客さんであるゴム成形メーカーの所に訪問するのは年1、2回という頻度になってしまいます。よってそのほとんどは電話、Eメール、FAXを使って打ち合わせをする事になります。材料のグレードの数が少ないという事は、それだけ大ロットで安く作るという事に徹しているわけです。よってゴムの配合から見ますと少ない種類の材料を使っていかによいグレードのゴムを作るかというところが腕の見せ所になります。力のある材料メーカーは毎年、ゴム業界の新規テーマにそって、新開発グレードを出してきますが、売れないと見ると1年間ぐらいですぐそのグレードを廃番にしてゆきます。
米国では、ゴムの材料は小ロットで買いますと大変割高になります。アメリカでは運送費は買う方の側が負担しますので、小ロットの発注をしますと広い国土を輸送してくるわけでそれだけ高い運送費がかかります。よってゴム成形メーカーは大きな材料倉庫を持ち、場合によっては1か月分の材料を持つか、ないしは、大きなトラックや貨車でいっぺんに材料メーカーの工場からポリマーを引き取って来る、カーボンを引き取って来るという事が行われています。土地が安い、そして建築費の安いアメリカならでは、この大きな材料倉庫システムが成り立つのでしょう。
アメリカでは、人の移籍、ある会社から違う会社に移るという事が頻繁に行われています。ただしゴム業界について言いますと、一回ゴム業界で職を得た人は、そのほとんどは、同じゴム業界でA社からB社、更にC社に移って行く事が普通です。私があるゴム練会社と打ち合わせをしました。その時5人の技術者と話をしてみると5社の別々のタイヤメーカー出身だという事が分かり、大いに話が盛り上がりました。中でもGOODYEAR社出身という技術者はやはり格が高いようです。これだけ人の動きが激しいと、配合のノウハウは実はその人にくっついて、別の会社に移っていくのではないかと思います。
現地のゴム練会社へ委託生産をお願いしていましたので、その関係で、アメリカの数多くのゴム練会社を訪問しました。アメリカには30社ほどのゴム練会社があります。白練りバッチを生産する会社も5、6社あります。この30社のうちトップの5社は、品質管理をきちっとやっておりますが、小ロット対応はなかなか苦手のようです。ゴムコンパウンド価格も量が多いと、かなり安くなる。1バッチ、2バッチでは大変高いという事のようです。ゴム練りは基本的に11号バンバリーを使用しますので、日本より一回り大きなバッチサイズとなります。
ゴム原材料の品質について言いますと、やはりある確率で不良品が出ます。ただしアメリカの考えでは、不良品はある確率で必ず発生する。もし発生した場合にはそれを返品し、お金を返せばいいという考え方が徹底しております。よってゴム材料に、不良品が発生した場合に、今後、不良品の流出防止をどうやるか、不良品をなくす根本的対策をどのように行うかについて、なかなか議論されません。日本のゴム人からしますと、次にこのような不良品を起こさない為に、どの様に手を打つのかが一番大事な事なのですが、これは余り重要視されていません。またお金を返せばいいではないか、という事のようです。
ニーダー練りはまだ余り普及していません。バンバリー、インターミックスそしてロールでの練りというのが標準であります。話は違いますがゴムの機械について言いますと、中古のロール、ミキサー、プレスをオーバーホールし、再生して販売することが一般的で、これをリビルド機械といいます。新品ゴム機械を買うのはタイヤメーカーぐらいで、一般的な工業用ゴム製品会社は、この中古品をオーバーホールした機械を買う事が当たり前です。アクロン近郊にはこのような中古機械専門の工場がたくさんあり、私も何社かと付き合い、日系のゴム会社に、この中古機械を販売しました。そのような工場に行きますと、ロールのさおが300本、ロールのフレームが100台、何段積みにもなって大きな倉庫に山積みされています。また中古モーターが100台、減速機が50台在庫され、ほとんどの仕様の機械は、これらの部品を使って組み合わせて作ろうというような形で打ち合わせを進めていきます。日本のゴム人がこのような再生ゴム機械メーカーの倉庫に行きますと、必ずびっくりして、さすがゴムの町アクロンだなぁと感心されます。
ゴム材料メーカー同士の競争は少ないように思います。それはゴム材料メーカーの数が少ないからです、ポリマーメーカーでは、例えばNBRなら実質的には2社、CRなら2社しかなく、また材料メーカーの生産工場からの距離を考えますと、購入するメーカーの選択肢は限られてきますので、競争は余りないと考えて良いでしょう。アメリカのゴム材料関係のゴム人は、ある意味では皆さんお仲間で、競争相手の会社に勤めていても皆さん同じ仲間だという意識が強いようです。元を正せば同じ会社にいたというケースも数多くあるようです。400人もの北オハイオ地区オールゴム人ゴルフ大会に、たった一人の日本人として参加しましたが、なかなか面白い経験でした。
米国では、新しい会社が次々に起業しています。ゴムの新しい製造方法を使ったユニークな中小企業が毎年のように生まれています。そこには古くて新しいアメリカのゴム業界のバイタリィティーをみる思いがします。皆さんも機会があったらそんなバイタリティーに触れてみるのもよいかもしれません。
加藤事務所では、ラバーダイジュスト社発行の月刊ゴム・プラスティック関係の総合技術誌「ポリマーダイジュスト」に、「ラバー情報ステーション」のタイトルで、ゴム業界に関する情報コラムを平成14年5月より連載しています。連載後6ヶ月を経たコラムはここに公表しております。最新号の記事は、ラバーダイジュスト社よりポリマーダイジュスト誌をお買い求めください。(ラバーダイジュスト社 電話03-3265-4840)
更新日2003/07/11
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