加藤事務所 ポリマーダイジェスト誌
コラム集
サンプル手配依頼仕事に使える情報集
.平成14年7月号コラム
 タイトル: PRTR法への対応と活用

今回はPRTR法についてお話したいと思います。平成13年4月より新しい法律PRTR法が始まっています。平成13年度の1年間に皆さんの工場において、政府が定めた対象指定化学物質を354種類のうち1種類でも年間5トン以上使用していた場合には、それらの対象化学物質が皆さんの工場からどのくらい環境に漏れたか、大気、河川、下水道、地面に漏れたか、またどのくらい廃棄物として工場外に出したか、その数字を算出して各都道府県の環境部に、報告書、届出書として提出する義務があります。この6月末にこの提出期限を迎えました。おそらく日本で100以上のゴム工場で、このPRTR法届出書、報告書を提出されたと思います。平成13年度、14年度は年間5トン以上の使用量の場合、提出でしたが、平成15年度からは年間1トン以上この354種類の化学品を使用していた場合には、提出義務が出てきます。その中には可塑剤のDOP、DOA、難燃配合に使う三酸化アンチモン、鉛丹、リサージ、更に、加硫接着剤によく使われているトルエン、キシレン、メチレンクロライド等、これらの化学物質が対象品目になっていますので、NBR配合や難燃配合を持っているゴム工場、加硫接着剤を使っているゴム工場は、おそらくこの毎年1回の提出義務があります。既に多くの会社がこの届出書を作成し、都道府県に提出されたと思いますが、皆さんは、この届出書を作成する途中で、その環境への漏れ量をどの様に計算し、その合計量を出したらいいか、多いに迷われたと思います。環境省よりも、いろいろこの計算方法のマニュアルが発表されていますが、実はゴム工場においてはほとんど参考になりません。実際皆さんの工場で各工程において、どの位の可塑剤が空気に漏れたか、どの位のゴム薬品が大気に飛散したなどはなかなか分かりません。測定する方法もありません。このPRTR法は、実際に計算をしようとしますと、困ってしまい苦労されているという事が現状なのです。合理的な推定にもとづく計算でよいのですから、各工場なりの合理的な計算方法を決めて、毎年同じ方法で計算するのがよいでしょう。
 このPRTR法は今までの色々な化学規制の法律に比べて大きく異なります。一つは国が大気への漏れ量を何PPM以下にせよというような規制をしているのではありません。使用禁止にしているわけではなく、製品の製造に必要な化学品を正しく管理していけばよいのです。各企業が自主的に環境への漏れ量を報告しなさい。更にその報告された数字は、その会社名とともに国民に公表しますということです。つまり、皆さんの工場が地域住民、そして国民の皆さんから、見られている、監視されているという事です。全国の工場の環境への漏れ量、廃棄量がその会社名をともに一枚1090円でCD-ROMデータで入手できると聞いています。よって、各企業では自主的に環境に悪影響を与えそうな化学物質を、環境に漏らしていく量を減らしていきましょうという力が働きます。又このPRTR法は環境アセスメントのデータを得るという意味合いもあります。政府はこのデータを使い環境政策の立案に役立てたいを考えています。別の言い方をすると今まで国は環境に悪影響を与えそうな化学物質の排出量のデータをつかんでいなかったということです。
 今回PRTR法は用紙による届出だけでなく、フロッピーディスクやCD-ROM、更にインターネットを使いオンラインでその報告書を提出するといった、現代のe-businessに近い方法が用意されています。既に、今年3月には日本ゴム工業会が、その会員向けにPRTR法対策マニュアル、届出書作成マニュアル等が作成し、その計算のやり方について解説がなされています。私もこのマニュアルを作成する仕事のお手伝いさせていただきました。
 今回PRTR法は、その報告書届出書を作成するという作業が注目されていますが、実はこのPRTR法はその他に大事な事が二つあります。一つはMSDS(安全データシート)を必ず作るという事であります。今まで実はMSDSの作成義務はありませんでした。今回初めて法律によって、この全部で435種類の化学品(ゴムマスターバッチを含む)については、MSDSを作成しなければならないという事になりました。ここで重要なことは、MSDSを活用しようという事です。実態としてはMSDSを受け取った多くの会社は、購買部のファイルにMSDSがそのまましまっている事が多いようです。つまり死蔵されているということです。しかし、MSDSには、その取扱い注意や技術的な情報、緊急時の応急手当の方法、そして法律的な適用範囲について書かれた大変重要な情報です。そして、従業員の皆で共有すべき情報です。この大切な情報源であるMSDSを是非皆さんの工場では、3部コピーをして、1部は購買部に、1部は製造現場に、そしてもう1部は技術部、ないしは環境部でファイリングして、そしてすべての作業者、従業員が、この資料にアクセス出来るようにするシステムをつくることが大切だと思います。
 加硫済みのゴム製品に、MSDSが必要かという質問をよく受けますが、PRTR法上ではほとんどのケースにおいては、MSDSは必要ありません。なぜならば、加硫済みゴム製品に含まれているPRTR法対象化学物質は、その後の取扱いにおいて、液化、気化、粉体化しませんので、PRTR法の特例条項により、対象外となり、MSDSの記載の対象化学物質にはなりません。もっとも、取引先のお客様からMSDSを提出してくれと言われるケースも多いと思います。その場合には一般的な取扱い注意を書き、適用法令の欄には、この製品にはPRTR法上特に報告すべきことはありませんと書けばよいのです。
 もう一つPRTR法で大切な事は、このPRTR法が各工場の工場改善を推進しているという事です。有害な化学物質をなるべく環境に漏らさないために、各工場での工程を継続的に見直し改善していってもらいたいという強い要請があります。そのために会社の組織の中に、そのような改善チームを作り、工程を継続的に見直していって欲しいという事が法律に明記されています。
 更に、このPRTR法に関連して、平成13年度より労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法によって多くの有害化学物質には、MSDSを作成しなければならなくなりました。カーボンブラック、ホワイトカーボン、酸化亜鉛、プロセスオイルもそのMSDS作成の対象になりました。つまりこれらの化学品を取り扱う時には、作業者に防護の準備が必要で、体を保護する対策を行って下さいという事であります。PRTR法が厳しく実施されているアメリカで、一部のゴム薬品工場で、その作業者がまるで宇宙服のように、頭のてっぺんから足の先まで、防護服をまとい、全面マスクをして、そのような身を守る保護服を着て作業しているところを見かけた事があります。きちんとやるとそこまで必要だという事かもしれません。
 今後のゴム業界への影響を予想してみます。まずMSDSの発行が増えるでしょう。特に樹脂/ゴムのマスターバッチで購入している工場は、その保管、管理に工夫が必要です。ゴムマスターバッチ品にはほとんどMSDSが作成されていなかったのが現状でした。それが今後PRTR法対象化学物質を1%以上含んでいる物には、すべてMSDSを作成し、販売先に提出する義務が生じます。
 また社内で、対象指定品目の購入、環境への排出量、廃棄量を管理する部署が設置されるようになるでしょう。特にISO9001、9002、14001を取得した会社では、その購入量、環境排出量、廃棄量の管理、関連文書保管管理システムが必要となります。
 さらに環境への排出量、廃棄量が多い会社では、それらを減らそうとする動きが始まるでしょう。 具体的には、溶剤回収装置の設置、バリや不良品低減のさらなる運動。保管場所の管理徹底。配合剤計量ブースの整理整頓清掃の徹底などです。またどうしても使用量、排出量を減らせない化学品については、同等の性能をもつPRTR法対象外の他の化学品への代替が検討されるようになるでしょう。特に溶剤関係では、溶剤の量を減らしたり、溶剤の種類を変更する試みが行われることになるでしょう。
 PRTR法対象品目となった一部の薬品では、薬品のマスターバッチ化、オイル処理品への変更の動きがすすむでしょう。米国では、この薬品マスターバッチ化が大変普及し、またマスターバッチ品はゴムへの分散がよいので、グレードによっては配合量を20%ぐらい減らせるとの報告もあります。但し、その分のコストアップがすんなり受け入れられるかが懸念されます。
  ゴムを自社練りしていたのを、外部からマスターバッチで購入することに切り替える事により工場精練部門、計量部門から、ゴム薬品、可塑剤等の環境への排出量をほとんどゼロにすることができるようになります。そこでゴムマスターバッチでの購入が検討されるでしょう。これにより、バリや不良品の廃棄量は減りませんが、このマスターバッチ購入は企業イメージアップ(環境を守る企業として)と排出量の算定作業の低減に役立ちます。米国でもこのような動きがありました。これはゴムマスターバッチメーカーにとってはマスターバッチの需要増が見込まれることになります。
  PRTR法はたしかにゴム工場にとって手数がかかる法律ですが、ゴム産業が地球の環境を守り、地域と共生してゆくために、また結果としてゴムのリサイクルが進み、人間と地球にやさしいゴム工場が繁栄するためにこのPRTR法が活用されることを望みます。
 PRTR法については、加藤事務所のホームページ ラバーステーション www.rubberstation.com にて詳しく解説していますので、どうぞ一度ご覧下さい。



加藤事務所では、ラバーダイジュスト社発行の月刊ゴム・プラスティック関係の総合技術誌「ポリマーダイジュスト」に、「ラバー情報ステーション」のタイトルで、ゴム業界に関する情報コラムを平成14年5月より連載しています。連載後6ヶ月を経たコラムはここに公表しております。最新号の記事は、ラバーダイジュスト社よりポリマーダイジュスト誌をお買い求めください。(ラバーダイジュスト社 電話03-3265-4840)

ゴム報知新聞オンラインニュースゴムタイムス紙ポリファイル(高分子と化学の技術情報誌)、米国Rubber & Plastic News紙米国RubberWorld誌欧州Europian Rubber Journal誌英国British Plastic & Rubber誌
更新日2003/07/11
このコラムの著作権は株式会社加藤事務所にあります。
All Rights reserved byShinichi Kato Office
このラバーステーション、ゴム情報リンクのすぺてのページについて、無断転載を禁じます。
-加藤事務所-