加藤事務所
平成14年6月11日発表
トヨタ自動車の音頭で、東洋ゴム工業と横浜ゴムとがそれぞれ、不二精工の技術のもとに、新タイヤ製造法で量産タイヤを製造開始する。
かねてよりうわさされていた 新タイヤ製造法でタイヤ量産化がスタートする。 詳しくは、両社のプレス発表のとおりである。横浜ゴム及び東洋ゴム工業それぞれは不二精工株式会社が開発したタイヤ新工法と自社のタイヤ新技術を組み合わせた新タイヤ製造技術により、トヨタ自動車の開発支援のもとで、高性能なタイヤを開発。今年も夏に量産化スタートする。東洋ゴムの発表はこちら。横浜ゴムの発表はこちらへ。同技術については、いまだ不明な点も多いが、とにかくこの方法で製造したタイヤがトヨタ車に実装されるのである。平成14年5月の米国Rubber&Plastic
News紙にも記事がでていたが、従来のタイヤドラムにビード、ラジアルスチールコード、ゴム生地を順番に巻きつけ、それを内側から、タイヤの形にゴム風船(ブラダー)で膨らまし、金型の押しつけて加硫していた製法を、どうも初めからタイヤの形にして、それを内側から熱流体を流し、金型で加硫する縦型の加硫機を使用する製法に変更するらしい。はじめラジアルスチールをどうやってタイヤの形にするのか?インジェクション? いまだ疑問点も多い。
5月7日のトヨタの発表では、「トヨタ自動車が、タイヤ部材メーカー不二精工が独自開発した新製法を採用、生産設備を大幅に小型化でき、従来製法に比べ約20%ものコストダウンが見込めるという。近く量産試作に入り、今年夏にも「セリカ」「アルテッツァ」などスポーツタイプ車に採用、主力車種にも徐々に広げていく計画。」
目的は、トヨタがタイヤの生産コストを研究し、ブラックボックスであるタイヤコストにメスをいれること。またブリヂストンをはじめとする巨大タイヤメーカーに対抗するためとも言われている。(R&PN紙より)。タイヤPL訴訟を考えるをトヨタが本気でタイヤを自社で生産することはないであろう。両タイヤメーカーともトヨタの工場に近く、トヨタへの納入が比較的多い東洋ゴム工業と、ホンダ寄りであるがトヨタへの接近を試みる横浜ゴムがこのプロジェクトに参加した。ブリヂストンはトヨタといえども主要な取引先の一社でしかなく、やや距離をおいている。
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最近の不二精工の公開特許は下記のとおり。この2年間に20件のタイヤ成形装置の特許を出している。
ゴムをコーティングしたスチールワイヤを タイヤドラムの高速で巻きつけ、そこにゴムシートを巻き付け、内側の筒を一部大きく広げて成形するのか? 加硫後タイヤの内側を水を撒いて急速に冷やす。
詳細は ここをクリックして、不二精工のタイヤ関連の公開特許(テキスト検索で 不二精工 AND タイヤ と入力 )をご覧ください。 (加藤事務所調べ、特許庁データベースより)
項番 | 公開番号 | 発明の名称 |
1. | 特開2002 - 178725 | ランフラットタイヤ及びランフラットタイヤとリムとの組立体 |
2. | 特開2002 - 137607 | 空気入りラジアルタイヤ及びその製造方法 |
3. | 特開2002 - 137310 | グリーンタイヤ,その製造方法,製造システム |
4. | 特開2002 - 127270 | タイヤ用ベルト材の製造方法及び製造装置 |
5. | 特開2002 - 028986 | タイヤ成形用ドラム |
6. | 特開2002 - 011806 | タイヤ成形におけるビードの自動供給装置及び自動供給方法 |
7. | 特開2002 - 001729 | タイヤ成形装置及びタイヤ成形方法 |
8. | 特開2001 - 336076 | ゴム被覆撚り線,それを用いたベルト,プライ,タイヤ,それらの製造装置及び製造方法 |
9. | 特開2001 - 315129 | ポストキュアインフレータ及び加硫後のタイヤを冷却する方法 |
10. | 特開2001 - 212887 | タイヤ構造体の成形装置 |
11. | 特開2001 - 212827 | 加硫装置及び金型交換方法 |
12. | 特開2001 - 199201 | 自動車用ディスクホイール |
13. | 特開2001 - 145961 | 空気入りタイヤ用ボディープライ材の製造方法及びその製造装置 |
14. | 特開2001 - 138405 | 帯状タイヤコードの接合方法 |
15. | 特開2001 - 138404 | タイヤ形成用円筒状プライの搬送装置 |
16. | 特開2001 - 129896 | タイヤ成形装置 |
17. | 特開2001 - 129894 | タイヤ用帯状ゴム部材の移送方法及び移送装置 |
18. | 特開2001 - 088512 | 空気入りラジアルタイヤ |
19. | 特開2001 - 071393 | タイヤ成形用ドラムの連結構造及びそれを備えたタイヤ成形装置並びにドラム脱着装置 |
20. | 特開2001 - 018620 | タイヤのビード部の補強構造 |
21. | 特開2001 - 009848 | ポストキュアインフレータ及び加硫後のタイヤを冷却する方法 |
22. | 特開平11 - 001880 | タイヤコード |
23. | 特開平10 - 259583 | タイヤコード及びタイヤコードの配列構造 |
24. | 特開平10 - 230714 | 空気入りラジアルタイヤ |
25. | 特開平10 - 119049 | タイヤ加硫装置 |
26. | 特開平10 - 071654 | ラジアルタイヤの成形装置におけるブラダ |
27. | 特開平10 - 044721 | 空気入りラジアルタイヤ |
28. | 特開平10 - 029248 | タイヤのブラダレス加硫方法及びタイヤ |
29. | 特開平09 - 234806 | ラジアルタイヤの成形装置におけるブラダ |
30. | 特開平09 - 226315 | タイヤ用カーカスコード |
31. | 特開平09 - 142112 | タイヤのビード部の補強構造 |
32. | 特開平09 - 142111 | タイヤ及びタイヤ用滑り止め部材 |
33. | 特開平08 - 091026 | 空気入りタイヤにおけるビード部の補強構造 |
34. | 特開平08 - 011239 | ラジアルタイヤの成形装置におけるブラダ |
35. | 特開平07 - 315008 | 空気入りタイヤのブレーカベルト |
36. | 特開平06 - 320921 | ビードワイヤ |
37. | 特開平06 - 293029 | ブラダレスタイヤ加硫方法 |
<参考> 平成12年5月当時の加藤事務所のコメント:
トヨタ自動車が検討中のタイヤ生産方式
平成12年5月8日発行 日経ビジネス誌には、「トヨタ自動車がタイヤを自社内で平成13年中に生産する。但しタイヤメーカーの協力をベースに、生産技術は岐阜の不二精工株式会社の技術を採用
」との記事があった。ゴム業界人にとっては、驚きの記事であるが、不二精工の技術を加藤事務所にて調べると、これは、ブラダー(タイヤ内側から加硫時に膨らます風船)を使用しないタイヤ加硫機と、これによりコンパクトな(タイヤを垂直に立てて加硫する)縦形加硫機システムからなると思われる。これ以外にもゴムとの密着を改良したタイヤコードの特許もあり。これらの公開特許の要約は、上述のそれぞれ見出しをクリックしてください。また、これらの特許の詳細全文は、このゴム情報リンクNo.2ページで、特許検索を選択し、これらの特許出願番号を入力し、ご覧ください。
ブラダーを使用しない製造方法は、ブラダーの替わりに、加熱した加圧流体をタイヤ生地内側に流し、タイヤ生地を内側から膨らまして加硫する方法で、これによりブラダーを使い捨てにすることはなくなり、タイヤ金型全体をスチームで加硫することなく、タイヤ生地のみを加硫し、省スペース、省エネルギ-型の加硫となる。また
コンパクトなタイヤ加硫機とは、タイヤを縦におくよう金型を配置し、数台ならべることにより、省スペース型のタイヤ加硫機となる。これらの製造ノウハウは、タイヤメ-カーというより、世界的にみても、三菱重工業と神戸製鋼所の2社がにぎっているのではないかと思う。
特許公報から見る限り、不二精工は、ゴム配合技術、ゴム混練り技術、未加硫タイヤ生地の成形技術、タイヤ試験技術、設備機のノウハウを持っているとは思えない。よってトヨタと不二精工だけでは、タイヤは決して生産できないであろう。タイヤメーカーがトヨタ工場内での生産に協力するとしても、それは、販売シェアーの確保と、タイヤの物流費と在庫削減が目的であり、けっしてタイヤの生産技術、配合技術をトヨタに簡単には出さないであろう。
この不二精工を技術を使う限り、トヨタは外部からフルコンパウンドまたは、タイヤ生地成形品を購入することが必要であり、(まさか、自動車工場内に促進剤といれるバンバリーラインを設置はしないであろう。)そうすると主な技術、原材料価格決定権は今後もタイヤメーカーが持つことになる。また、現在トヨタへのタイヤの納入価格(市販や補修用タイヤの価格の半分以下の価格)を考えると、タイヤメーカーは、トヨタ向けの新車用タイヤで大きく利益を出しているとも思えず、たとえこの新生産方式となっても大きくコストダウンできる余地は少ないのではないかと思える。日経ビジネス誌記事にあるような、タイヤの調達コストが半分以下になる。とは信じがたい。
可能性があるのは、あるタイヤ会社が、この話を進展させて、トヨタに全面的に協力するかわりに、独占的にトヨタにタイヤを供給することである。これにより、タイヤ会社間の販売シェアーの大きく変動し、それにより、相場価格が変わる可能性はある。トヨタも、PPバンパーやウレタンバンパーを同じようにタイヤの製造を考え、同じようにできるとして、このような自社内でのタイヤ成形を考えていたとしたらそれは間違えであろう。タイヤの加硫成形は全体の工程の一部に過ぎない。しかし今回の件でトヨタは、今後タイヤメーカーに対して圧力をかけ、交渉を進めるであろう。
ともあれ、今後ともこの報道を注意深くフォローしていきたい。
加藤事務所 加藤進一
更新日:平成14年7月12日
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