加藤事務所

トヨタ自動車が検討中のタイヤ生産方式

平成12年5月8日発行 日経ビジネス誌には、「トヨタ自動車がタイヤを自社内で平成13年中に生産する。但しタイヤメーカーの協力をベースに、生産技術は岐阜の不二精工株式会社の技術を採用 」との記事があった。ゴム業界人にとっては、驚きの記事であるが、不二精工の技術を加藤事務所にて調べると、これは、ブラダー(タイヤ内側から加硫時に膨らます風船)を使用しないタイヤ加硫機と、これによりコンパクトな(タイヤを垂直に立てて加硫する)縦形加硫機システムからなると思われる。これ以外にもゴムとの密着を改良したタイヤコードの特許もあり。これらの公開特許の要約は、上述のそれぞれ見出しをクリックしてください。また、これらの特許の詳細全文は、このゴム情報リンクNo.2ページで、特許検索を選択し、これらの特許出願番号を入力し、ご覧ください。
ブラダーを使用しない製造方法は、ブラダーの替わりに、加熱した加圧流体をタイヤ生地内側に流し、タイヤ生地を内側から膨らまして加硫する方法で、これによりブラダーを使い捨てにすることはなくなり、タイヤ金型全体をスチームで加硫することなく、タイヤ生地のみを加硫し、省スペース、省エネルギ-型の加硫となる。また コンパクトなタイヤ加硫機とは、タイヤを縦におくよう金型を配置し、数台ならべることにより、省スペース型のタイヤ加硫機となる。これらの製造ノウハウは、タイヤメ-カーというより、世界的にみても、三菱重工業神戸製鋼所の2社がにぎっているのではないかと思う。

特許公報から見る限り、不二精工は、ゴム配合技術、ゴム混練り技術、未加硫タイヤ生地の成形技術、タイヤ試験技術、設備機のノウハウを持っているとは思えない。よってトヨタと不二精工だけでは、タイヤは決して生産できないであろう。タイヤメーカーがトヨタ工場内での生産に協力するとしても、それは、販売シェアーの確保と、タイヤの物流費と在庫削減が目的であり、けっしてタイヤの生産技術、配合技術をトヨタに簡単には出さないであろう。 この不二精工を技術を使う限り、トヨタは外部からフルコンパウンドまたは、タイヤ生地成形品を購入することが必要であり、(まさか、自動車工場内に促進剤といれるバンバリーラインを設置はしないであろう。)そうすると主な技術、原材料価格決定権は今後もタイヤメーカーが持つことになる。また、現在トヨタへのタイヤの納入価格(市販や補修用タイヤの価格の半分以下の価格)を考えると、タイヤメーカーは、トヨタ向けの新車用タイヤで大きく利益を出しているとも思えず、たとえこの新生産方式となっても大きくコストダウンできる余地は少ないのではないかと思える。日経ビジネス誌記事にあるような、タイヤの調達コストが半分以下になる。とは信じがたい。
可能性があるのは、あるタイヤ会社が、この話を進展させて、トヨタに全面的に協力するかわりに、独占的にトヨタにタイヤを供給することである。これにより、タイヤ会社間の販売シェアーの大きく変動し、それにより、相場価格が変わる可能性はある。トヨタも、PPバンパーやウレタンバンパーを同じようにタイヤの製造を考え、同じようにできるとして、このような自社内でのタイヤ成形を考えていたとしたらそれは間違えであろう。タイヤの加硫成形は全体の工程の一部に過ぎない。しかし今回の件でトヨタは、今後タイヤメーカーに対して圧力をかけ、交渉を進めるであろう。
ともあれ、今後ともこの報道を注意深くフォローしていきたい。
加藤事務所 加藤進一


更新日:平成12年5月8日
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